マレーシアで首狩り族の村として有名なビダユ族のロングハウスを訪れる。猫の街として有名なクチンから車で一時間半ほどの所にある。
ロングハウスというのは行ってみてわかったが読んで字の如く家が長いのだ。竹でつくられた足場がずっと続いており、その足場で家々がつながっている。まるで大きな長い長い一つの家のようなのだ。
かつてこの村には首を狩るという風習があったとのこと。実際村を訪れるとヘッドハウスというドクロが籠の中に入っている倉庫のような建物を見ることが出来る。
また村の中にはゲストハウスもあり宿泊をすることも出来る。ところどころでお土産物屋や食べ物屋も見受けられる。
竹細工の上を歩きながら家々の中を見たりしていたが、かなり裕福に生活をしているようだった。ほとんどの家でTVやコンポがあった。村の人も観光客慣れしており、挨拶をしてくれる。ぎすぎすした貧困の感覚は村内には皆無だった。
●観光収入の計算
(住人数)
この村は観光で一体どれくらいの収入を得ているのだろうか。色々と聞いてみた。
まず人口。登録上は3000人程いるらしい。ただクチンに出稼ぎに出ている人も多いらしいのでまるまる3000人はいないという。家の数は146棟だという。ということは一つの家に20人住んでいるということになるが、聞いてみると4?7くらいが大半なようだ。別の人に聞いたら1000人以上は住んでいるといっていた。家の数が正確でない可能性もあるが、一つの家に7人住んでいるとして実数として約1000人の住人がいるとする。
(月の入場料収入)
観光客は村に入るのに一人8リンギット(1リンギット=約30?35円)払う。ツアーなども行われており、一日の来場者数はだいたい100?200の間くらいだという。
8リンギット×150人×30日=36000リンギット
(月の宿泊料収入)
そして村のゲストハウスに宿泊をする場合は一泊295リンギットかかるとのこと。頻度としては月に3?4回宿泊客がくるとのこと。一回あたりの人数は少ないとカップルの2人多いとグループでくることもあるという。
295リンギット×4人×4回=4720リンギット
36000(入場料)+4720(宿泊料)=40720リンギット
簡略化の為40000リンギットとする。
(世帯当たりの収入)
これを40000リンギットを1000人で割ると
一人頭40リンギットが収入として入る。
一つの家あたり6人の家族がいるとする。
40リンギット×6=240リンギット(一世帯当たりの観光収入)。
1リンギット=33.5円で計算すると一人頭1340円、世帯当たり8040円となる。
2012年のマレーシアの地方部での平均世帯月収は3080リンギット。
240リンギットは月の収入の約13分の1にあたる。
(日本の感覚値に当てはめてみる)
日本の感覚で考えると下記のようになる。
日本の地方の平均給与を360万(ボーナス込)として考え、月収30万とする。
その13分の1、約2.3万円のベースインカムが得られる計算になる。
もちろん彼らは別の仕事もしているのでその収入にプラスして2.3万円のインカムがあるということになる。
リンギットベースであっても数か月貯蓄をすればテレビやコンポを購入できるだけの金額になる。この金額はとても大きなものだろうと思う。
また村から歩いて15分ほどの所に学校があった。警察所は車で30分後くらいのところだという。警察機能が村の中になくてもよいくらい治安がよいのかなと感じた。
おばあちゃん
●文化の保存
よくエコツーリズム等の文脈で文化や遺跡の保存という観点の議論がされることがある。例えば山奥の民族であれば彼らとの接触それ自体が彼らの文化の破壊につながる。単純に西欧化したり、先進諸国の価値観を押し付けるだけが彼らの幸せにつながるとは限らない。
そこまでいかないまでも例えば途上国の村落開発で、地元の文化・風習の尊重と西欧の技術・価値観の導入という部分ではせめぎ合うことも多いと思う。
上記のビダユ族の文化の保存と先進国化のバランスは個人的にもとても良いのではないかと思っている。もちろん文化が本当の意味で保存されているかという議論はあると思うし、文化の多様性が失われることが人類としての損失と考えることも出来るかもしれない。
しかしそこに暮らす人たちが余裕をもって豊かに生きてゆくということが最も大切なことではないか。
ロングハウスで見た村はとても豊かだった。人に余裕があった。生活が安定している印象を受けた。何よりも大切なのはその人たちの生活だと考える。逆に言えばもし表面的に豊かになっていても彼らがそれに対して安らぎを感じなかったりするのであればそれは強制するものでない。
人類としての文化の保存や多様性の価値といったものも大切だと思うが、やはり一番大切なのはその土地、その文化の中で生きる人たちが安心して安定的に生活できることだと思う。
かつろう