今回はタンザニアはザンジバルの漁師さんの生活をご紹介致します。
数回船に乗せて頂き、一緒に網を引かせて頂きました。
漁師さんの仕事の始まりは夕方の16時~18時頃。ザンジバルタウンにあるマリンディ漁港から船を出港させます。漁場をどこにするかはその日ごとにキャプテンが判断します。1~2時間くらいの場所に行くこともあれば、遠い所に行くこともあります。遠くに出て、翌日もその辺りを漁場とする場合はマリンディ漁港には戻らず、マンガポアンニ等近くの浜に寄港します。
そして漁場に着いたら碇を下し、陽が落ちるのを待ちます。どっぷりと暗くなったらいよいよ漁を始めます。まず小舟を海に下します。そして小舟に一人乗った漁師さんは魚群が寄ってくるのを待ちます。真っ暗な中で明かりをともしているので魚が寄ってくるのです。直接、海の底を見たり、魚が立てる気泡等を頼りとしたりして、魚群が下にいるかどうかを判断します。
魚群がいるとなったらいよいよ巾着漁という手法で網を打ちます。小舟を中心にして円を描くように網を下して行きます。網の上部には浮きがついており、下部には重しがついています。円を描くように打つとちょうど円柱状に網が垂れるような形になります。そしてその後、皆で綱を引くことで円柱の下部の部分を締めていきます。ちなみに綱や網を引くときの掛け声はモジャ、ビリー、タトゥーというスワヒリ語で、つまり、いち・にの・さんと言います。この辺りの掛け声は万国共通なのだなと感じました。
そして綱を引き、下部を締め、魚群が下から逃げられないようにしたら、いよいよ網を引きあげます。網をほとんど引き上げた後、残った空間にいる魚群を、別の大きな柄のついた網ですくい上げ、船内のボックスに入れます。このような網打ちを一晩のうちに1~数回行います。
暗くなるまでの時間や魚群を探っている間等の空き時間で睡眠を取ったり、手釣りをしたりします。手釣りとは直接ラインを垂らして釣ることです。竿などは全く用いずに、重りと餌を付けたラインを直接手で引きます。取りたい魚によって餌を下す深さや、ラインの太さなどを変えます。食付いた震えを感じた瞬間に内側に水平にラインを引くことでしっかりと針を食い込ませます。この手釣り、なかなか難しく熟練の漁師さんはバカバカと釣り上げていましたが、私は結局一匹も釣れませんでした。ちなみにこの手釣りで得た魚は本人の取り分になります。
そして日が明けてくると港に戻ります。朝8時~10時くらいの間に戻ります。そして船上が戦場に変わります。船の上で、その場で卸売りが始まるのです。船が港につくやいなや一斉に仲買人が乗り込んできます。他の船から移ってくる人や泳いで渡ってくる人がおり一気に船は満員になります。そして持参したバケツに魚を入れ、その場で買い付けます。価格はその日の他の船との兼ね合い、つまり港全体の漁獲量によって変動します。日によって数倍の値段の開きが起こります。俺に売ってくれ、価格は幾らだ、といったやりとりが為され、仲買人同士が言い争いをしたり、お金はないが魚をもらいに来た人がいたりと船上は喧騒に包まれます。
全て売り切ると、その場で売り上げが計算されます。そしてガソリンなどの必要経費や船主の取り分を引いた金額を船員に分配します。つまりその日の漁獲量によって収入が左右されるのです。全く取れない日は収入がゼロになります。そして朝10時くらいに陸にあがり、またその日の16時に港に来るという生活です。
一か月の内、月の12夜前後から一週間ほどは船を出さない期間になります。月明かりが強いと船上の明かりでは魚が寄ってこない為と思われます。その一週間の間に船やエンジン、発電機等の修繕を行います。この間に休養も取ります。
なかなかハードな仕事ですが、漁師さんたちは皆陽気でやさしく、力持ちで、そして誇り高かったです。日々当たり前に食している魚。漁師さんたちがおり、仲買人がおり、小売り・調理する人がいて、やっと食べることが出来る魚。当たり前の中には多くの人の日々の積み重ねが入っているのだということを身を持って勉強できました。
マリンディ港の様子