ブレグジットとトランプの次に何が起こるのか、歴史が教えてくれる .166

今回は英語の記事(History tells us what may happen next with Brexit & Trump)の翻訳をしました。トランプの台頭とブレグジットの先に何が起こるのかということを歴史の大きな流れの中で捉えています。長いですが、一読する価値は間違いなくあります。

●翻訳始まり●

どうやら我々は一定周期で自分たちが作り出す愚かな時期に突入しようとしているようだ。私は情報に基づいて私の意見を描きたい。私の意見は正しいかもしれないし間違っているかもしれないが、議論の一助となることを願っている。

私のバックグラウンドは考古学に歴史、そして人類学だ。その背景により私は歴史の大きなパターンを見ることが出来る。私の考えでは多くの人々の歴史に対する見解は両親や祖父母から伝えられる範囲の、せいぜい50年から100年に限定されると思う。その範囲を越える為には人間は本を読み、勉強をし、学ばないといけない。それらにより人は歴史を知るために不可欠な情報を紐解くことができるようになる。簡単に言えば、大学ではあるトピックに関して、もし2つの意見や3つ以上の反する見解を比較しなければ落第してしまう。1つの見解を絶対的な真実として捉えることは、比較分析をすることが中核をなすイギリスの学術界では、真実を映し出すことは出来ない。(他の学術界等のシステムについてはわからないし、全てが同じようではないだろうれど)

俯瞰的にみると、我々人間は、定期的に大規模な破壊のフェーズに陥る習性があるようだ。その破壊はある程度は我々自身が引き起こしていることもあれば、そうでないこともある。この便利なリスト(http://www.datesandevents.org/events-timelines/24-timeline-of-war.htm)は戦争をまとめたものだ。戦争は人類の性とも言えるが、それ以外にも、時折なにか大きな物事が起こる。私はヨーロッパに大きなダメージを与えたペストの流行に興味がある。作家ボッカッチョの小説デカメロンの始まりはペストに支配されたフィレンツェを描き出している。それはホロコーストや広島、ソンム(第一次世界大戦の激戦地)といった情景の想像を越えるものだ。私が言いたいのは、あなたは文字通りそれがどのようであったかを想像することが出来ないだろうということだ。ペストの流行の真っただ中にいた人々は、まさに世界の終わりを感じていたに違いない。

しかし人間の決定的な特徴は立ち直る力だ。今日の我々にとってはペストを生き抜いたというのは明らかな事実だか、当時の人々にとっては社会が存続したということは信じられないことだったに違いない。実際、長期的に見ればペストの流行はプラスの影響をもたらしたと言える(http://listverse.com/2015/01/28/10-good-things-we-owe-to-the-black-death/)。“何十万という虚弱な人々を短期間に殺すことにより、ペストは自然淘汰の力を示し、弱い人々をヨーロッパから広範囲にわたり取り除いた”(http://www.technology.org/2014/05/09/positive-effects-black-death/)。それに加えて、ペストはあるヨーロッパの地域では社会構造を大幅に変化させた。悲劇的な人口の減少は労働人口の不足を招いた。この不足が賃金の上昇に繋がった。同様に商品の価格の下落にもつながった。結果として、生活水準は向上した。そして人々は高品質な食糧の消費を始めた。

しかし、世界大戦やソビエトの飢饉、ホロコーストといった経験をした人々にとっては、そこからまた立ち上がるというのは想像を超えたと感じられたに違いない。他に例を挙げればローマ帝国の崩壊、ペストの流行、スペイン宗教裁判、30年戦争、薔薇戦争、イングランド内戦などがある。人類はこれらの大規模な破壊的出来事から立ち直り、そしてより良い社会へと向かってきた。

最初ある場所単位では、人々は問題ないと思っているがやがて、物事は手におえない状況に陥り、我々は我々自身に大規模な破壊を引き起こす。その渦中にある人にとっては、現実に起こっていることを直視して理解することは難しい。ソンムの戦いの100周年記念イベント(http://somme2016.org/)に参加した際、私は突然、ソンムの戦いがオーストラリア皇太子暗殺(サラエボ事件https://ja.wikipedia.org/wiki/サラエボ事件)の直接的な結果であると思った。暗殺が起こった当時、誰ひとりとしてがヨーロッパの皇太子暗殺が1700万人の死に繋がるとは考えなかっただろう。

私の言いたいことは、これは周期だということだ。同じことは何度も起こるけれど、多くの人間は50年から100年の歴史的な展望しか持たないので、同じことが起こるということを理解出来ない。第一次世界大戦を引き起こした事件が明らかにするように、何か大きな間違い(当時のヨーロッパを覆っていた蜘蛛の巣のような条約関係)があると警告したのは明晰な人々はごく少数でしかなかった。しかし、彼らは気が狂っている、ばかげているといって退けられた。よくあることではあるけれど。そして今、プーチンやブレグジット、トランプを心配する人も同じように退けられている。

戦争を終わらせる為の戦争の後に、人類はまた新たな戦争を起こしてきた。繰り返すが、歴史家にとってそれはとても予測可能なことなのだ。自国の制御と運命を失ったと感じるように国民を誘導し、スケープゴートを探させ、カリスマ的なリーダーは国民感情を掌握し、スケープゴートを選び出す。そのリーダーは具体的な詳細は話さず、修辞的な物言いで怒りと憎しみを増幅させる。すぐに大衆は一つのものとして、論理的な動機なしに動き始め、そして制御不能に陥る。

それはヒトラーであり、ムッソリーニ、スターリン、プーチン、ムガベでもある。ムガベは適切な事例だ。彼は国民の怒りと憎悪を、土地を所有する少数の白人(たまたま農場経営に携わっていた)に向けさせ、彼らの土地を取り上げて、人々に再分配した。それにより結局は、経済と農業は崩壊し、土地を再分配された人も飢えることになった。ソビエト連邦によって引き起こされた飢饉(https://ja.wikipedia.org/wiki/ホロドモール)や、20世紀に引き起こされ2000万人から4000万人の人が死んだと言われる中国の共産主義者によって引き起こされた飢饉(https://ja.wikipedia.org/wiki/大跳躍政策)も同様だ。数千万人が理由もなく死ぬという状況を人間が作り出しているということは信じられない。しかし我々人類はそれを何度も繰り返しているのだ。

しかし人は破壊周期に向かう軌道に乗っているということを、その時点では気づかない。彼らは自分自身が正しいと思い込み、怒った民衆を冷やかすことで元気づけられ、彼らの批判は嘲笑される。例えばベルサイユ条約からヒトラーの台頭、そして第二次世界大戦へとつながったような周期が再び起ころうとしている。しかし過去と同様に、多くの人がその周期を認識することが出来ない。その理由は下記だ。

  • 彼らは現在しか見ようとしておらず、過去と未来とみていない。
  • 彼らはすぐそばの自分の周囲のことしか見ずに、それらがグローバルに繋がっているということを見ていない。
  • 多くの人は本や記事を読まず、考えず、反対の意見に耳を傾けたり、真剣に向き合ったりしない。

トランプはこれをアメリカで行っている。歴史的な視点から見ている我々のような人種は、それが起こっているということを見ることが出来る。ニューヨークタイムスでプラトが描写した長くて素晴らしいエッセイ(http://nymag.com/daily/intelligencer/2016/04/america-tyranny-donald-trump.html)を是非一読して欲しい。彼が予想したように物事は進展している。トランプは偉大なアメリカを取り戻すと言っているが、どの統計を見てみても今のアメリカは実際のところ偉大だ。トランプは激情、怒り、修辞表現を巧みに利用している。それはかつてのカリスマナルシストたちが民衆を取り込んで、周りを熱狂的な支持者で固めて、どんどん強大になっていったのと全く同じだ。あなたはアメリカがトランプの台頭を許すような状態にしたことに関して、社会を、政治家を、そしてメディアを非難するかもしれない。しかし大きな歴史的展望から見ると、歴史はいつも彼のような人物が統治者になるように展開する。

もっと広い範囲でみると、ロシアは恐怖と激情を利用して周りを狂信的な支持者で固めるカリスマリーダーを擁した専制国家だ。トルコはもはや同じ状況にある。ハンガリー、ポーランド、スロバキアも同様の方向に向かいつつある。ヨーロッパ全体に渡って、プーチンに資金を提供されているトランプやプーチンのような人種が彼らの思う通りになるような状況を密かに待っている。(http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/russia/12103602/America-to-investigate-Russian-meddling-in-EU.html)

我々は、我々にとっての(第一次世界大戦の引き金になった)サラエボ事件がいつ起こるのかを考える必要がある。とても小さな出来事が、次の大規模な破壊の周期を、どのように引き起こすのかを考える必要がある。我々はブレグジット、トランプ、プーチンを別々に見ている。世界はそのようには動かない。全てのことは繋がりあい、そしてお互いに影響し合う。ブレグジットに賛成している友人たちは、「え、ブレグジットをそのように批判するのかい??」と言う。しかし彼らは、歴史家が一見すると関係のない出来事からブレグジットのような大きな政治的社会的な転換に繋がる痕跡を辿るということに気づいていない。

社会に憤りを感じていた人々が勝利したブレグジットは、同じように勝利することが出来るかもしれないと、他の憤りを感じる人々を同じような戦いに駆り立たせる。それだけでも連鎖反応を引き起こし得る。核爆発は、1つの原子が分離することによって起こるのではなく、最初の分離した分子がその周辺の原子を分離させ、そしてそれがまた周り原子を分離させることによって起こる。原子の分離が指数関数的に増加し、そしてその合わさったエネルギーが爆弾になるのだ。それは第一次世界大戦がはじまった原理であり、皮肉にも、第二次世界大戦を終わらせた兵器でもある。

ブレグジットが核戦争に繋がる例は下記のようなものだ。

英国のブレグジットがフランスやイタリアにおいて、イギリスと同様のEU残留の可否を問う国民投票を引き起こす。ルペン(フランスの極右政党党首)がフランスで選挙に勝つ。ヨーロッパにはバラバラになったEUが存在することになる。EUは、沢山のひどい欠陥の代償として、ヨーロッパ内での戦争をかつてないほど長く防いできた。EUはプーチンの軍事的な野心を抑え込んできた主要な勢力でもある。ヨーロッパの制裁措置はロシアの経済に打撃を与えたし、ウクライナへのロシアの攻撃を和らげた(悪い奴らがEUを弱体化させようとする理由はこれだ)。そして、トランプがアメリカの大統領選挙に勝つ。トランプは他国とのかかわりを持たない孤立主義者になり、それはNATOを弱体化させる。バルト三国へのロシアの攻撃に際して、自動的にNATO条約を守ることはないと、彼は既に述べている。(http://www.nytimes.com/2016/07/21/us/politics/donald-trump-issues.html?_r=0)

分裂したEU・弱体化したNATOという条件のもと、ロシアの経済と社会が危機に面しているということを考慮すると、プーチンは民衆をまとめるために次の対外的な敵が必要になる。プーチンはラトビアの反EUの極右活動家に資金援助をしている。活動家はラトビアの東(EUとロシアの境目)において、ロシアンラトビアの暴動を起こす為の理由を作り上げる。ロシアは、ジョージアとウクライナにしたように、“平和維持軍”と“援助輸送車”をラトビアに送り込む。プーチンは東ウクライナを併合したように、東ラトビアを併合する(ちなみにクリミアとラトビアの人口は同じくらいだ)。

フランス、ハンガリー、ポーランド、スロバキアといった分断されたヨーロッパの国やプーチンに資金援助されてロシア寄りで反EUの国は経済制裁や軍事的行動を却下する。NATOは鈍い動きをする。何故ならトランプはアメリカを巻き込ませたくないだろうし(https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/how-a-trump-presidency-could-destabilize-europe/2016/07/21/9ec38a20-4f75-11e6-a422-83ab49ed5e6a_story.html?utm_term=.864a719ff78c)、多くのヨーロッパ諸国は無関心か、さもなくば行動を妨げるだろうから。欧米からの実質的な抵抗がないとみるやロシアはさらに深くラトビアに進行し、そして東エストニアと東リトアニアに入り込む。ロシアに侵略されて他に選択肢のなくなったバルト三国はロシアに対して宣戦布告する。ヨーロッパの半分はバルト三国を支持し、数か国は中立を保ち、数か国はロシア側に就く。トルコはどちら側に就くのか?イスラム国はこのヨーロッパの新しい戦争に対してどう対処するのか?誰が核兵器を最初に使うのか?

これは単なる一つのサラエボ事件(から始まった第一次世界大戦)のようなシナリオに過ぎない。流動的な構成要素による巨大な複雑性のせいで、あり得るシナリオの数は無限大だ。もちろん、多くのシナリオでは何も起きない。しかし歴史を鑑み、全ての指標を考慮すると、我々は新たな破壊の周期に差し掛かっている。

破壊周期は我々が予期しない形でやって来て、そして瞬時に制御不能に陥り、人間はそれを止めることが出来なくなるだろう。未来の歴史家たちはは過去を振り返り、全てが道理にかなっていたと考え、人々の考えがどれだけ考えが甘かったかと思うだろう。歴史家はどうして私はロンドンの小洒落たカフェで逃げもせずにこれを書いているのか、と思うだろう。そしてどして人々はこの文章を読んで、どのようにEU残留派が駄々をこねるのを辞めたことに関して、そして我々がブレグジットに関して責めるべきではないと言うことに関して、軽蔑的で嫌味なコメントを言うのか、とも思うだろう。また別の人はこれを読んで、トランプは偉大なアメリカの未来のヒトラーになり得るかもねと言いながら、私をあざ笑うだろう(ゴドウィンの法則https://ja.wikipedia.org/wiki/ゴドウィンの法則と思うかもしれないが、私はカリスマリーダーが制御不能になるまで憎悪の激情を煽るというナルシズムにおいてヒトラーを引き合いに出している)。歴史と経験に重きを置いた悲観的な予測に相対する結論にたどりつくことは簡単だ。トランプは共和党の他の大統領選挙候補者たちに悪口を言い、彼らの主張に反論することによって、勝利した。それは簡単な方法ではあるが、間違ったやり方だ。

ブレグジットやトランプの選挙キャンペーンの時に人々がそうしているように、専門家の意見を無視してあざ笑うことは、医者が喫煙を辞めるようにいうことを無視することと同じだ。後々になって末期がんを発症することになる。些細なことが制止できない破壊に繋がることになる。もしあなたが専門家の意見を聞いて、少しでも考えをめぐらせていれば防げたかもしれない破壊に。しかし人々はタバコを吸って、そしてそれにより死ぬ。それが人類の性なのだ。

私は、全て避けられないものだと感じている。どうなるかはわからないが、我々は悪いフェーズに突入しつつある。その破壊は、それを経験するものにとってはとても不快なものになるだろう。いやむしろ想像を超えた最悪の時代になるかもしれない。人類はそれを乗り切り、回復し、先に進むだろう。人類は多分良い方向に変わると思う。しかし一方で厳しい状況に陥る人もいるだろう。例えば火あぶりにされたトルコの教師、投獄されたトルコのジャーナリスト、ロシアの強制収容所に入れられた反体制派、テロの攻撃によってフランスの病院で負傷して横たわっている人のような立場になる人にとっては、来る破壊ははソンムの戦いになるだろう。

我々は何が出来るのか。繰り返しになるが、過去を鑑みれば、あまり出来ることはない。リベラルな知識層はいつも少数派だ。クレイ・シャーキーのツイッター(https://twitter.com/cshirky/status/756569741020377088)を見て欲しい。他人には優しく、人種差別はせず、戦争はしないという開かれた社会を標榜するのは良い生き方だが、最終的にはそのように考えている人は負けてしまう。そういう人は汚い戦い方をしない。彼らは大衆にアピールするのが苦手だ。彼らは暴力的でなく、そして最終的には投獄され収容所にいれられ、そして死んでしまう。我々は分裂しないように気を付けなくてはいけない(労働党を見れば明らかだ)。我々は事実と論理の議論で、迷走することを避けなければならない。そして激情を利用した大衆主義のメッセージに反論する必要がある。もし自分たちが同じような大衆主義的なメッセージを発した際は、腹を立てなければならない。ソーシャルメディアを理解し、活用しなければならない。不安を利用する必要がある。世界大戦への恐怖が、出来なかったけれど、もう少しで第二次世界大戦を止められるところだった。自分達と同じ人にのみ語りかけるのも避けなければならない(http://www.independent.co.uk/life-style/gadgets-and-tech/news/facebook-study-finds-people-only-click-on-links-that-they-agree-with-site-is-an-echo-chamber-10234746.html)。トランプとプーチンの支持者はガーディアンを読まないので、そこに記事を書いたとしても同じ考えの人を安心させるだけだ。かつてないほどに距離が開いてしまった、同じ考えをもった我々の閉鎖的なグループから、違う勧化肩を持った閉鎖的なグループへと、橋渡しをしなければならない。

(多分、私はこの記事を書いたので、次の破壊周期が来ているとういことを予見した人間の一人として歴史に記憶されるだろう。)

●翻訳終わり●

拙い英語力と日本語力のせいで読みにくい部分もあったかと思いますが、読んで頂きましてありがとうございました。世界がどう動くのか、自分の足りない頭脳では全然わかりませんが、わからないなりに日々情報を集め、考えることが大切なのだろうと思います。

先日ファイナンスの先生が本課とは別に時間を割いて経済の周期についての講義をして下さった。先生によると経済は安定期と不安定期を周期的に繰り返しているとのおこと。金本位体制やブレトンウッズ体制は安定期で、世界恐慌などは不安定期。そしてリーマンショック以降の世界経済は再度不安定期に突入したらしい。経済であれ歴史であれ、しっかりとしたレンズを自分で確立出来ると物事の本質を長期的な視点から見抜けるようになるのかなと思います。

かつろう

“ブレグジットとトランプの次に何が起こるのか、歴史が教えてくれる .166” への2件の返信

  1. かつろうさん、貴重な視点を翻訳いただき、ありがとうございました。
    歴史は繰り返す・・・・。行く先は・・・。
    世界が注目しています。

    1. 本当に歴史は繰り返すとはよく言ったものだと思います。ローマであれ、江戸時代であれ数百年続いた平和も何れは朽ちるということを考えると今のこの平和もいつかは終わりが来るのかもしれません。何か大きなピースが変わらない限り、人類はまた同じことを繰り返してしまうように感じます。

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