マイクロファイナンスの活用法の提案 .68

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実はこのブログ、カツカツ日記は国際協力×ビジネス×起業という副題を持っているのです。
実は一番最後の起業というのは、僕自身が起業をしたいという気持ちがあり、後から付け足したのですがあまりそれにカテゴライズされる記事を書けていないという残念な現状があります。
それもあり今回は起業に少しだけ関係する記事を書きたいと思います。

もしマラウイでマイクロファイナンスを始めるとしたらどういうモデルがあり得るのかということを考えてみました。

マラウイで最も主要な食べ物はシマと言われるメイズ(とうもろこし)の粉から作られるおモチのような炭水化物です。日本のお米のように、お肉や魚、野菜や豆と併せて食べられます。ケニアやタンザニアにあるウガリなどと似ています。
シマを食べないとご飯を食べたとは言わないと言われるほど、マラウイアンのソウルフードとしての地位を確立しています。

このシマの原料のメイズを生産している農家がたくさんあります。メイズは家内で消費してもいいですし、売ることによって換金することもできます。そしてこのメイズの価格は一年の内で変動します。収穫をしてすぐは供給量が多いので値段が安く、収穫の時期が近づくほどメイズがなくなるので値段が上がります。

収穫後、自分の家で消費する分のメイズを残して、残りを売却するということをするのですが、場合によっては家内用のメイズが足りなくなり、メイズをまた買い戻すということもあるようです。もちろん時期が遅くなっているので価格はあがることになります。

ここにマイクロファイナンスの力を導入することで、彼らを豊かに出来るのではないかと思いました。収穫後のタイミングで農民に融資をすることによって、メイズを売らずに貯めておけるようにするのです。そして価格が上がるタイミングでメイズを売って換金することによって利を得るのです。

例えば収穫後100キロのメイズが$200で売れるとします。(値段は概念として置いているだけなので、実際の価格は違います)。しかし半年待てばこれが$300で売れるとします。半年間待てばより良い価格で売れるのですが、彼らはそれを出来るだけの貯蓄がありません。値上がりすることが分かっていてもそれを蓄えておくだけの現金が手元にないのです。そこでかれらに$200を融資します。半年後$300になるタイミングでメイズを換金してもらい、利子をつけて返してもらうということをすれば、融資する側も、借りる側もウィンウィンの関係が築けることになります。

全体の収穫量が分かった後に貸すことになるので、メイズの値段の変動をある程度は予測でき、適切な利子を設定することが出来るようになるはずです。

また事業に対する融資とは違い、事業が失敗するというリスクはありません。時期がたつにしたがって供給量が減るので値段が下がるというリスクもかなり低いと考えられます。収穫後に貸すので収穫の成否による影響も受けません。

ただ、この手法は拡大するのには限界があると言えます。つまり需給バランスに影響を与えるのであまりに大きな規模で行うと価格や物の出回りに大きな影響を与えてしまい、結局価格が上がらずに利益が得られないということも起こり得るのです。

マイクロファイナンスというと、agile(小規模で、小回りの利く)なビジネスに融資するようなイメージが強いですが、このように時期をずらす投資・投機というような形でも運営できるのではないでしょうか。賛否両論あるかもしれませんが。

かつろう

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おススメTED その2後編?HIVの感染率と輸出量の関係? .67

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前回(http://hitonowa.blogspot.com/2013/11/vol66-ted2hiv.html)に引き続き経済学者Emily OsterがTEDで行ったHIV/AIDSに関するスピーチをご紹介します。

前回は平均寿命の短さがアフリカでHIV予防活動が進まないことに繋がっているという内容をご紹介しましたが、今回はHIVの感染と経済(特に輸出)との関連について書きたいと思います。


http://www.ted.com/talks/emily_oster_flips_our_thinking_on_aids_in_africa.html

●輸出とHIV感染率には正の相関がある

アフリカでHIVの感染率を大幅に下げることが出来た政策として有名なのがウガンダで行われたABCキャンペーンです。Aはabstain自制する・禁欲する、Bはbe faithful誠実な・貞節な、Cはuse condomsを表します。
ウガンダでは90年代にこれが行われ感染率が実に15%から6%に落ちたのです。この成功を受けてケニヤやタンザニア、南アフリカもこれに倣った施策を行ったりしています。

ところで、伝染病の研究者はトラックのドライバーや移民の間では感染率が高くなるということを主張しています。船乗りよろしく、トラックドライバーも行く先々で女性を買ったりしていることもあると考えられます。セックスワーカーの感染率が高いことを考えればドライバーの感染率が高く、そしてドライバーが媒介となる可能性が高いと考えられます。交通が集中する所では感染が広まりやすいのです。

実はウガンダのABCキャンペーンと時を同じくして起こったウガンダの経済変化がありました。輸出量の激減です。同国の主要輸出品であるコーヒーが、価格の下落を受けて、急激に輸出量を下げたのです。
HIVの感染率と輸出量は正の相関をたどりました。ウガンダでは、輸出の減少に合わせて感染率が下がった数年後、輸出量が増えるにしたがってHIVの感染も増加していきます。

【緑線が輸出量で赤線が新規のHIV感染数。横軸は経年。上がり下がりが相関している。】

輸出とHIV感染は正の相関を持っているのです。輸出量が2倍増えれば、HIV感染は4倍になるとスピーカーは言及しています。トラックドライバーのことを考えれば特に陸路での輸出の場合大きく関係するのではないかと思います。もちろん相関関係と因果関係は違いますが、両者の間には輸出⇒新規HIV感染の因果関係があると考えられます。
この関係性を知っていれば、輸出と感染の政策を包括的に考えることが出来るようになります。例えば感染率が高い地域への輸出が増大する場合、感染が増えることを考えて事前に対策を打つことが出来ます。

もちろんABCキャンペーンの効果が全くなかったというわけではありません。ただこの政策の効果の内25-50%くらいは輸出量の減少に帰する可能性があるということです。政策の効果が半減するかもしれないという情報を知っていればキャンペーンに投入する金額を他のプロジェクト、(例えば妊産婦死亡率を減らしたら、男子の割礼を推奨したり、)に投入するという選択肢も考えられるわけです。最も効率の良い予算の使い方を考えることが出来るのです。

長期的な視点で見れば、輸出の増大や経済発展は貧困を削減し、HIV感染率を減らすことにいい影響を与えることは間違いありません。しかし短期的に見た場合それがHIV感染率の増加に繋がる可能性もあるのです。

●まとめ

前回は寿命とHIV予防行動の関係について書きました。寿命が短いと死を回避する行動をとるインセンティブが低いということです。言い換えれば他の保健分野、例えばマラリアや妊産婦死亡率等の問題を改善することで平均寿命が延び、HIV予防に対する行動も促進されるということです。
今回は輸出量とHIV感染率が正の相関関係にあるということを見てきました。

これらからわかることはHIV/AIDSの問題を解決するためには単にHIVの事だけを考えていてはだめだということです。他の保健分野や経済分野なども考慮に入れなければならないということです。もちろんHIVに限らず全ての問題にはつながりがあり包括的に取り組まないといけないのだと思います。

そのような包括的な問題解決のアプローチをとる為にはスペシャリストとジェネラリストどちらの力も必要なのではないかと思います。ここを見るには専門的な知見が必要になりますし、全体を見るには国際協力、医療、経済等を統合して見、バランスを取る能力が求められます。

そうだとすると国際協力の分野でもジェネラリストとして、ますますMBA取得やビジネス・マネジメント経験といったものが重視されるようになるのかもしれません。
(参考:【Vol.37 国連で働く上でMBAは価値を持つのか】http://hitonowa.blogspot.com/2013/06/vol37-mba.html)

かつろう

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おススメTED その2前編?アフリカでHIVが減らない理由? .66

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●導入

今回のTED紹介はHIVに関するとても興味深い話です。内容が濃いので二回に分けてご紹介します。

スピーカーのEmily Osterはハーバード大学でPh.D.を取得後シカゴ大学で准教授になっている経済学者です。ちなみに両親ともにイェール大学の経済学の教授とのこと。

HIV対策を考える為には、マラリアや妊産婦死亡率等他の保健分野の問題や、輸出という経済分野の問題も同時に考慮に入れなければならないということをデータをもとにわかり易く説明しています。
彼女のスピーチより今回は他の保健分野との関係を、次回は輸出という経済分野との関係について書きたいと思います。


http://www.ted.com/talks/emily_oster_flips_our_thinking_on_aids_in_africa.html

●アフリカでHIVの感染率が減らない理由

? アフリカでHIVの感染率が減らない理由はなんなのでしょうか。色んなパターンが考えられると思います。例えばそもそもHIVに対する知識が足りない場合、HIVに対しての知識は持っていても防止策を取れない場合(コンドームの入手が困難・価格が高価等)、HIVに対しての知識は持っていても防止策を取らない場合(男性主導で使用しない、伝統的慣習として使用しない等)があると考えられます。もちろんこれらの複合要因であると考えられますし、地域によって違いは大きいと考えられます。

スピーカーは一つの実証データを紹介しています。80年代のアメリカのゲイの間で行われた調査では、過去二か月間に一人以上の人とコンドームを付けないセックスをしましたかという問いかけの答えが啓発活動により数年間で88%から55%に下がりました
しかしアフリカではそうではありません。90年代から2000年代にかけて独身男性と既婚男性を対象にして行われた調査ではセックスの行動に対する大きな変化は見られませんでした
様々なキャンペーンが行われて人々の知識は増えているはずなのにアフリカでは行動の変化がおこりません。何故なのでしょうか。

スピーカーは投資に対するインセンティブという経済学者の視点から説明をしています。例えばプログラマーを想定します。来週バージョン10がリリースされるのに、今現在のバージョン9に対して新しい機能を加えるインセンティブは働きません。ジムにいって運動をしたり、健康に良いものを食べたりするのは将来の生活があるからです。明日死ぬのに健康に気を遣ったりはしないはずです。

HIV予防の行動に対するインセンティブを、寿命を使って説明しています。つまりアメリカでは寿命が長く、アフリカでは寿命が短いので、アフリカではHIV予防に対する行動を行って得られる見返り(残りの人生)が少ないのです。アフリカでは平均寿命が40代?50代である場合も少なくありません。例えば、今30歳と仮定してみます。あと10年、20年しか生きられないのとあと50年も生きられるのとでは、このような行動変化を起こすモチベーションの違いに大きな差がでるということを理解できるのではないでしょうか。

スピーカーはこの仮説に対する実証データとして、マラリアの流行具合とHIV予防に対する行動変化の関係を上げて説明しています。
マラリアが流行している地域ほど寿命が少なくなると考えることが出来ます。つまりマラリアが流行していない地域ほど、HIVが流行した場合に人々は行動を変えるはずだということです。
それを下記のようにグラフを用いて実証しています。

【縦軸:セックスパートナー数。横軸:HIVの流行度合。赤線:高マラリア流行地域。緑線:中マラリア流行地域。青線:低マラリア流行地域。マラリアの流行が低い地域ではHIV感染が広がるにつれてセックスパートナーの数が少なくなっているのがわかる。】

マラリアが流行していない地域(寿命が長い地域)では、HIVの流行率が高いほど、セックスパートナーの数は減少しています。逆にマラリアが流行している地域(平均寿命が短い地域)ではHIVの流行率が高くなってもセックスパートナーの数は減りません。むしろ増加傾向にあります。
もちろんこれはマラリアの流行だけでなく、妊産婦死亡率等その他の寿命に関わる数値とも関係するはずだと考えられます。死のリスクが高い地域では他のリスクに対しても鈍感で、行動変化を起こしにくいということが言えます。

まとめます。寿命が短いアフリカの地域では人はたとえHIVについての正しい知識を持って、リスクを知っていたとしても、防止策を取るインセンティブが働きにくいということです。

この仮説はHIVの流行を減らす政策を講じる上でとても重要なインプリケーションを含んでいます。
つまりHIVの流行を減らそうと思った時に、単に啓発活動等のHIVに関連する施策を講じるだけでは不十分ということです。マラリア対策や妊産婦死亡率低減対策などを同時に講じることによって寿命が高まり、人々がHIV予防に対しての行動を変化させるようになるということです。

●考察

寿命というものを軸に他の保健分野との関わりの重要性を説いた内容でしたが、個人的には目からうろこでした。
マラウイの状況について包括的に考えてみたいと思います。HIVが減らないのには上記に書いたようにいくつかのパターンが考えられます。

・仮説1,HIVに対する知識がない
・仮説2,HIVに対する知識はあるが対策を取ることが出来ない(can’t)
・仮説3,HIVに対する知識はあるが対策をとらない(don’t)

【仮説1】
今現在私がいるマラウイでも色々と話を聞いていると、村レベルであってもそれなりにHIVに対する知識を持っているようです。しかし、仮説3でも言及しますが若年層に関しては知識を持っていない場合もあります。この仮説は一部支持されると言えます。

【仮説2】
コンドームは政府系の病院や医療機関であれば無料で配布されます。また市販されているものもそこまで金額が高いものではありません。金銭的な入手困難性は低いと考えられます。しかしruralエリアであれば、病院や医療機関、薬局へのアクセスが悪い地域もあります。この2番目の仮説に関しても一部支持されるということが言えます。

【仮説3】
この仮説が一番強く支持されると考えられます。

・伝統的習慣の問題
<Vol.61 マラウイの伝統的習慣とHIV/AIDS問題?http://hitonowa.blogspot.com/2013/10/vol61-hivaids.html>

・性別のパワーバランスの問題
男性の力が女性に比べて強く、もし女性の方からコンドームの使用を申し出た場合、お前は娼婦かというに言われたりするらしいです。快楽の観点から男性はコンドームを使いたがらないことがあります。

・若年層のセックスの問題
10代前半の若い世代からセックスを始めることが多いようです。そしてこれはHIVに対する知識がない中でのセックスや、知識があってもコンドームを使わないというようなリスク判断がない中でのセックスに繋がります。これはpeer pressureといってセックスをしてないとかっこ悪いという仲間内の圧力が大きかったりするようです。また若年層の間ではHIVにかかることよりも、妊娠することの方がカッコ悪くて、大きなリスクだと考えているようです。HIVは罹患しても外見的にはわからず、すぐには症状も出ませんが、妊娠はすぐに外見でばれ、男性も子どもがいるという事実が10か月後に起こり、周りからバカにされたりすることが理由となっているようです。

上記に加えて私の中で新しく下記が加わりました。

・寿命の問題
アフリカでは寿命が短いので、HIV予防に対する行動を変えるインセンティブが働きにくい。

この3番目の仮説が強く支持されると個人的には考えています。HIVの感染率を抑える為にはこの3番目の仮説に元づいた対策を取ることが最も効果的ではないかと考えます。

●まとめ

つまり単に啓発・教育キャンペーン(仮説1に基づく)やコンドームの無償提供(仮説2に基づく)といった政策は大きな効果は持たないと考えられます。
仮説3に基づき、伝統的習慣の法的な禁止と徹底した実施、女性のエンパワーメント、若年層への啓発、他の保健分野の改善による寿命を延ばす施策、そういったことを行っていくことがマラウイのHIV感染率を減らす為に本当に効果的な施策なのではないでしょうか。

そしてさらに経済面の政策とも合わせてHIV予防策を講じる必要性があるのです。それについては次回説明します。
⇒後編へ(http://hitonowa.blogspot.com/2013/11/vol67-ted2hiv.html)

かつろう

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