今回はTEDをご紹介したいと思います。
Candy Changの「Before I die I want to…」というスピーチです。
題を直訳すると「死ぬ前に?をしたい」となります。
彼女は母と呼ぶべき近しい人を亡くした経験をもとにあるアイディアを想いつきます。
彼女の住むニューオーリンズの共有スペースに黒板や付箋などを使って、コミュニティの人の声を反映できるようにしたのです。
その中の一つの問いがこの「Before I die I want to」でした。通りすがりの人たちが黒板にチョークでこの言葉に続く想いを書き連ねました。
「いつか死ぬその日までに、日付変更線をまたぎたい」
「いつか死ぬその日までに、何百万人の人の前で歌いたい」
「いつか死ぬその日までに、木を植えたい」
「いつか死ぬその日までに、自給自足の生活をしてみたい」
「いつか死ぬその日までに、彼女をもう一度抱きしめたい」
「いつか死ぬその日までに、自分自身になりたい」
この試みは世界中に広がっているようです。
そして彼女はこのように述べています。
「Thinking about death is clarifies your life」
「死について考えることは、人生をより鮮明にする」
ところで、「タナトフォビア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
死恐怖症、死ぬのが怖いことをいうのだそうです。
病気は病名を付けた時から生まれるわけで、これの症という言葉を使えば病気に分類されるのかもしれません。
僕自身の人生においてこのタナトフォビア、死ぬのが怖いという感覚を中学生の時から持っていました。何故だかはわからないのですが、ジブリ映画「もののけ姫」を見てから心の中にもやがずっとかかり続け、そして夜寝る時布団に入ると、ふと実感として死が怖く感じ始めたのです。
頭で理解するのと感覚で実感するのは別です。それまでは死というものに対して頭では理解していましたが、このときに初めて感覚として体に入ってきました。もちろん常に死ぬのが怖いと思っているわけではありません。しかしふと布団に入って寝ようとすると死が感覚的に知覚されてとても恐怖に感じることが今でもたまにあります。
僕自身、今アフリカのマラウイにいます。今ここにいる理由はこの死への恐怖から発しています。死ぬのが怖いと感じることはまず死にたくないという強い否定的な気持ちになりました。やがて、ならばどうせ皆死ぬのだから思った通りに、自分らしく生きて行きたい、死ぬのだから生きたというなにかを残したい。そういった感覚を強く強く心の底に秘めるようになっていきました。それが自分を次へ次へと、新しいことに挑戦させ、努力させ続ける原動力となっています。
「ソフィーの世界」という本があります。物語形式で初歩的な哲学を学べるとても面白い本です。この本の冒頭部分には下記のようなことが書かれています。普通の人はぬくぬくと温かい世界に安住し真実から目をそむけ生きており、哲学者は大変だけれども真実と向き合って生きている。この真実というのは僕にとっては死そのものなのだと感じます。哲学者にはなれなかったけれど、死という真実くらいには向き合える自分でいたいと望みます。
人はややもすると自分が死ぬということを忘れます。というか、そうなるようにプログラミングされてるのだと思います。そうでなければ生きていくことはとても価値がないことのように思われるからです。
そういった意味ではこの「自分が死ぬという直感的な感覚」を持ちえたことは、僕自身のギフト、僥倖と言えるように感じます。
いつか死ぬ。多分あと50年とかそこいらで。
それを心に刻み、忘れずに生きて行きたいです。
かつろう