マラウイ、伝統的権力構造の弊害 .83

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前回の記事(Vol.82 マラウイの統治・行政区分?伝統的権力構造と政府統治構造の混在?)ではマラウイの統治・行政区分をご紹介しました。今回はこの伝統的権力構造の弊害をご説明します。

●前回のまとめ

村を治めるビレッジ・ヘッド(VH)、複数の村を治めるグループ・ビレッジ・ヘッド(GVH)、複数のグループビレッジを治めるトラディショナル・オーソリティ(TA)、そして部族の長であるパラマウント・チーフが伝統的な権力者としてその地域で影響力を保持している。また国から派遣されるディストリクト・コミッショナー(DC)という県知事のような人もいる。しかし基本的には伝統的な権力者の影響力が根強く残っている。というのが簡単な前回のまとめです。

●土地制度の弊害

今回はこの伝統的な権力構造における弊害を考えたいと思います。もちろん伝統的な権力支配には土地やコミュニティの安定といったメリットはあります。しかし同時に弊害となる部分もあるのです。

伝統的な権力構造の最も大きな弊害は土地問題にあると言えます。

マラウイの土地は3つに分けられます。国有地、私有地、慣習法下の土地の3つです。国有地は国が所有している土地で、私有地は個人が所有している土地、慣習法下の土地は地域に属する共同体全体に属し、その土地の伝統的な権力者が管理します。そしてこの慣習法下の土地の割合がマラウイ全体の7?8割あると言われています。つまり村長やトラディショナル・オーソリティと言った権力者が伝統的・慣習的に管理している土地がマラウイの大部分を占めているのです。

そしてこの土地は以下のような特徴を持っています。

・村長の許可があった場合は可能ですが、基本的には土地の売買は認められない。
・配分されている土地は子孫に贈与や相続を通して半永久的に受け継がれ、家族全員がいなくなった場合などはコミュニティの所有として変換される。

この土地制度が3つの問題に繋がっています。

・土地の細分化

農地は子孫へ贈与・相続されることによってどんどん細分化していきます。もちろんこれは大規模で効率的な農業を阻害する要因になります。

・土地取得が困難

企業やNGO等が活動のために土地を取得するには伝統的な権力者の同意がなければなりません。これがそう簡単にはいかないため、企業やNGOの活動がやりにくくなっています。新規の投資への疎外にもなり得ると思います。

・土地を担保に融資が受けられない

土地は共同体に属すると考えられるので個人の農民には属しません。ということはそれを担保に銀行などから借り入れが出来ないのです。スモール・ビジネスを始める為の借入などが難しくなるということです。

●権力の分散化

またこの伝統的な権力構造は権力の分散、地方分権に繋がっています。土地土地の権力者がその領内においての影響力を行使しているからです。単に地方分権が悪いというわけではありません。しかし例えば開発独裁という考え方もあるように、国家の黎明期においては、中央集権的に大幅な改革を英断しなければならないことも多いはずです。このような分権構造に立脚していてはいつまでも現状のままで大きな成長は望めません。

それに大統領、政党は選挙に勝つためにその地方の有力者の機嫌取りの政策をしなければなりません。例えばある有力者の地域や民族では人口が多く影響力が高いとします。彼らから病院の建設を依頼されれば政府・与党は断れないでしょう。我田引水です。もちろんこれが全て悪いわけではありません。しかし国家としての政策に基づいた政策と、地方からの要望を元にした政策というのは必ずしも一致しないはずです。地方に権力があると深慮遠謀に基づく100年の国策を行うということが難しくなるはずです。

個人的にはこの伝統的な権力構造が良くも悪くもマラウイを現状のままにとどめ置いている大きな要因であると感じています。

かつろう

参考文献:マラウイ 成長産業予測に係る情報収集・確認調査 最終報告書(平成25年8月)

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“マラウイ、伝統的権力構造の弊害 .83” への2件の返信

  1. 確かにすごく難しい問題だと思う。
    ひとえにチーフの裁量に寄ってしまうというところが、日本でいう戦国大名の時代のような「殿様の力量で住民の生活レベルが決まってしまう」という社会になってしまうよね。良かれ悪しかれ。
    でも、俺はNGOや政府側としても取り入る隙はあるんじゃないかな?って思ってます。
    村にとっても有益だと説得さえできれば、チーフの快諾さえ得てしまえばあとは逆にやりやすくなるというか。
    ガーナも大都市以外はほとんど同じような慣習が残っているけど、カンジャガ村ではチーフに熱弁ふるって
    説得?出来たあとは、すんなり土地も貰えたし、労働力もチーフが声掛けてくれて賃金なしで村人が手伝ってくれているよ。
    お金のトラブルもつきものだけど、チーフが間に入って説得してくれたり。
    なので、例えば村出身の人を巻き込むだとか、逆にその村に住むところから始めるとか、村に入り込んで
    取り込むような融解作戦が有効なんじゃないかと思ってます。
    それとか、例えば大会社でいう「事業部制」のようにしてしまって、チーフを国政に取り込んで権限を与えてしまうとか。
    どうしても、政府とコミュニティー(地方の)は対峙する関係になってしまいがちのような気がするけど、
    お互いに歩み寄って1本の道に進む方向があるんじゃないかな?って理想論的に思ってます。
    長文失礼しました。いい投稿をありがとう!!

  2. 確かに仰る通り!
    今既存としてある構造を上手く利用することが大切かもしれませんね。上手く巻き込めればスピードもすごく早いでしょうし。あとはそのチーフが汚職であったりをしなければという感じですね。

    政府とコミュニティが上手くバランスをとってやってくってのは途上国だけじゃなくて日本でも大切なことのような気がします。地方分権的に現地で出来ることは自由にやった方が効率が良くなるかもですね?

    地方政治に関して最近読んだおススメ記事です!
    http://toyokeizai.net/articles/-/34321

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